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東京高等裁判所 平成元年(行ケ)166号 判決

東京都新宿区西新宿三丁目七番二六号

原告

大野家建

右訴訟代理人弁護士

戸田善一郎

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被告

特許庁長官 植松敏

右指定代理人

町田隆志

古賀洋之助

松木禎夫

宮崎勝義

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

「特許庁が昭和五九年審判第五五四六号事件について平成元年五月二五日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

二  被告

主文同旨の判決。

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

出願人 原告

出願日 昭和五六年八月三〇日(昭和五六年特許願第一三五九七三号)

発明の名称 「硬質盤状体の面取加工方法及びその研摩面取装置」(後に「硬質盤状体の研摩面取装置」と補正。)

拒絶査定 昭和五九年一月一二日

審判請求 昭和五九年三月二八日(昭和五九年審判第五五四六号事件)

審判請求不成立審決 平成元年五月二五日

二  本願発明の要旨

硬質の円若しくは楕円の盤状体周部両面の面取加工を行う研摩面取装置において、回動自在に横架軸設した主軸に固設した回転フレームに対して一個または複数個の筒受枠軸を自転自在に且つ右主軸に対して公転する如く軸設し、該筒受枠軸の軸芯位置またはその近傍に、盤状被加工材料を収容可能に成り、その外径に対して内径が比較的小径に成る円筒内腔部を有する一個または複数個の円筒状容器を筒受枠軸と平行または有角度に取り付けると共に、右主軸と筒受枠軸をそれぞれ電動機等の回転駆動装置に依り回転駆動するように構成し、前記円筒状容器に被加工材料と共に適宜粒度適量の研削・研摩材及び水等化学液剤を含む流体、或いはそれらのいずれかを封入し、右両回転駆動装置の回転駆動により該円筒状容器を主軸に対して公転及び自転せしめ、円筒状容器内壁と被加工材料の周縁を研削・研摩剤を介して摺擦し、被加工材料の反転及び旋回作用に依り両面全周に恒って均一に面取加工することを特徴とする硬質盤状体の研摩面取装置

(別紙図面一参照)。

三  審決の理由の要点

1  本願発明の要旨は前項記載のとおりである。

2  米国特許第二三八七〇九五号明細書(以下、「引用例」という。)には、回転自在に横架した軸7に一対のディスク9を固着し、被加工材20の大きさに対して内径が比較的小さい管状の容器12をディスクに円周方向に間隔をおいて回転自在に支持し、軸7を回転自在に挿通した偏心体15を軸7の軸受6に固定し、偏心体15に環16を回転自在に嵌合し、偏心体15と各容器の一端をクランクピン18及び腕19で連結し、軸7にプーリ8を固着して軸7を適当な駆動装置から駆動するようにした構成とし、容器12を公転及び自転せしめ、容器12の内壁に被加工材20を押圧しながらこれを研摩し、随時反転してその面取加工を行う研摩装置が記載されていると認められる(別紙図面二参照)。

3  本願発明(前者)と引用例に記載の発明(後者)を対比すると、後者の軸、ディスク、容器は、前者の主軸、回転フレーム、円筒状容器にそれぞれ相当しており、したがって、前者が、(イ)回転フレームに筒受枠軸を軸設し、該筒受枠軸に円筒状容器を取り付け、(ロ)主軸と筒受枠軸を二台の駆動装置により回転する構成を有するのに対し、後者が、(イ)に関しては、容器をディスクに対し直接取り付け、(ロ)に関しては、軸と容器を一台の動力装置により回転する構成とした点で、両者は相違し、その余の構成において、両者は一致している。

4  前記相違点について検討する。研摩装置において、回転フレーム相当部材に軸を回転自在に支持し、該軸に容器を取り付ける構成は周知(例えば、実公昭五一-四八〇七〇号公報参照。)であって、前記(イ)の構成は、この周知事項より、後者における容器をディスクに軸を介して取り付けたものに相当し、当業者が容易に想到することができたといわざるを得ない。また、主軸及び容器をそれぞれ別個の駆動装置により回転することも周知(例えば、特公昭五四-二九五七号公報参照。)であって、前記(ロ)の構成は、この周知事項によって、後者の軸及び容器をそれぞれの駆動装置により回転するようにしたものに相当し、このような構成とすることに当業者が格別の創意を要したとはいえない。

5  なお、請求人(原告)は、(ハ)前者は円若しくは楕円の盤状体の面取りを行うのに対し、後者は方形の盤状体の面取りを行い、(ニ)前者における容器は自転するのに対し、後者における容器は自転しない、(ホ)前者における被加工材は反転及び旋回するのに対し、後者における被加工材はこのような運動を行わない点でも、両者は相違する旨主張する。(ハ)については、後者も円盤状体の研摩を行うことがあり、(ホ)については、後者も被加工材の反転を行うことが記載され(引用例二頁三八行ないし五八行参照。)ており、後者も被加工材を円盤とすれば、その旋回が可能であるとともに、前者において旋回のための格別の構成が採られておらず、したがって、(ハ)及び(ホ)のような相違を両者間にみることはできない。また、後者においても容器は自転するものであって、両者間に(ニ)のような相違点もみることができず、仮に前者の自転を後者の自転と異ならせても、それは所謂遠心流動バレル研摩法における周知の操作態様にすぎない。

6  したがって、本願発明は、引用例に記載の発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法二九条二項により特許を受けることができない。

四  審決の取消事由

審決の理由の要点1は認める。同2の引用例の記載内容のうち、容器12を自転せしめること及び被加工材20を随時反転してその面取加工を行うことが記載されているとの点を否認し、その余は認める。同3の相違点の認定は認めるが(但し、相違点ロの「二台の駆動装置により回転する構成」は「それぞれの駆動装置により回転する構成」の誤りである。)、両者がその余の構成において一致しているとの点は争う。同4は争う。同5のうち、請求人(原告)の主張内容、及び、引用例記載の発明も円盤状体の研摩を行うことがある点は認め、その余は争う。同6は争う。

審決は、引用例記載の発明の記載内容の認定を誤った結果、本願発明と引用例記載の発明との間の相違点についての認定、判断を誤ったものであって、この誤りは本願発明の進歩性を否定した審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、違法なものとして取り消されるべきである。

1  引用例記載の発明の記載内容の認定の誤り(取消事由1)

(一) 引用例記載の発明の装置では、ディスク9を公転させると容器12も同様に公転しながら反対の向きに回転し、ディスク9及び容器12が一回公転すると容器12は一回自転したかにみえる。ディスク9が軸7の軸線を中心に容器12を公転させるように回転すると、該容器12は円形の軌道を回り、このように容器12が公転するにつれて、固定式円形偏心体15を中心支軸として回転する環16とクランクアーム19との連結運動により、容器12とクランクアーム19との固着ユニットはクランクアームを下側にしたままの一定の姿勢を保ったままディスク9の軸芯7から容器12の軸芯までの距離を半径とした円周軌道上を公転する。この際、引用例の第2図及び第4図(別紙図面二第2図及び第4図)からも明ちかなように、容器12の軸芯はディスク9の軸芯を中心とする円周軌道上を公転周回し、クランクピン18の軸芯は固定式円形偏心体15の軸芯を中心とするような丁度右の円周軌道が下方に平行移動した別の円周軌道上を公転周回するので、容器12とクランクアーム19との固着ユニットは、クランクアームを常に鉛直方向下側に垂下させた一定の姿勢(鉛直姿勢)を維持しながら公転することになる。

右の運動を仮にディスク9上から眺めたとすれば、公転と反対の方向に容器12が一見自転しているかに見える。すなわち、容器12は一回公転する間に反対方向に一回自転しているかに見える。しかし、これは真の自転ではなく、ディスク9が公転により回転しているからその上から見れば逆に容器12の方が自転しているかに見えるだけである。実は、固定座標系から、すなわち地上から観測すれば、容器12は一定の姿勢(鉛直姿勢)を維持したまま公転しているのみであって、なんら自転はしていないと結論できる。

(二) 引用例記載の発明の装置では、容器12は軸7の中心のまわりに一定の半径で一定の回転角速度で公転するのみであり、いわゆる等速円運動であるから、遠心力は時間的に変動せず、容器12内の被加工材に働く遠心力も同様に時間的に変動しない。被加工材に重力も作用するが、この場合遠心力の方がはるかに大で支配的であり、そのために被加工材は、引用例二頁左欄二二行ないし二八行に記載されているとおり、容器内壁の軸7から最も遠い領域に一定の圧力で押さえつけられたまま公転する。これにより被加工材は常にその一方の側の面のみを容器内壁に押しつけられたまま容器内壁面上を滑り動く、すなわち摺動することになる。公転一回当たり容器内壁面にそって一周分だけ摺動し、これにより片面側だけの研摩が行われることになるが、反対に被加工材の落下による反転は生じない。したがって、引用例記載の発明の装置には被加工材を随時反転せしめてその面取加工を両面とも均等に行うべき発明工夫機構がなんら内蔵されていないと結論することができる。このことは、引用例二頁左欄三八行ないし四四行に「機械を起動したり停止したりすることによって、被加工物、結晶体は反転させることができる。換言すれば、定期的に機械を起動したり停止したりすることによって、均等の原理が働いて、その結果各結晶体は明らかにその両面が面取、研摩される。」と説明され、引用例の「特許請求の範囲」の一項ないし四項に「……特徴とする本明細書に記載した非タンブリングの遠心力を利用した機械」と記載していることからも明らかである。

(三) 以上によれば、引用例には、容器12を公転及び自転せしめ、容器12の内壁に被加工材20を押圧しながらこれを研摩し、随時反転してその面取加工を行う研摩装置が記載されているとした審決の認定は誤りであるといえる。

2  本願発明と引用例記載の発明との相違点の看過(取消事由2)

(一) 本願発明の主要な構成部分とその作用効果

本願発明の構成において、回動自在に横架軸設した主軸に固設した回転フレーム(大筒)に対して一個または複数個の筒受枠軸(中筒)を自転自在に且つ右主軸に対して公転する如く軸設し、該筒受枠軸の軸芯位置の近傍に、盤状被加工材料を収容可能にして、その外径に対して内径が比較的小径に成る円筒内腔部を有する一個または複数個の円筒状容器(小筒)を筒受枠軸と平行または有角度に取り付け、主軸と筒受枠軸をそれぞれ電動機等の回転駆動装置に依り回転駆動するように構成されたものが主要な構成部分と思料される。すなわち、本願発明は、被加工材からみると、回転フレーム1(大筒)、筒受枠軸13(中筒)、円筒状容器15(小筒)の三種の筒ないしは類似物を三重に回転させるものであり、大筒たる回転フレームと中筒たる筒受枠軸をそれぞれの軸芯のまわりに回転せしめ、筒受枠軸を公転と同時に自転させると、筒受枠軸に取り付けられた小筒たる円筒状容器も大筒の公転に基づく公転と中筒の自転に基づく局部的公転及び自転類似の自己回転運動が作用効果を生ずるようになっている。しかも、大筒、中筒、小筒の全体を公転せしめる大筒の主軸2と中筒を自転せしめる軸9とは、それぞれ別個の電動機等の回転駆動装置に依り、この両電動機から駆動伝達される減速機6、19の入出力軸の回転比等の調整により所望のそれぞれ任意の速度で各々を回転せしめることが可能である。したがって、小筒たる円筒状容器は、大筒の公転に基づく大半径の公転と中筒の自転に基づく小半径の局部的回転をまず受けることになり、これらの運動を合成した複雑な動きを呈する。これを大別して公転と自転との重ね合わせとみることもできる。すなわち、固定座標系つまり地上からみると、小筒の軸芯は、円軌道上でなく複雑な波形或いはらせん状の軌道に沿って大筒の中心に近付いたり遠ざかったりしながら公転する。同時に、小筒自身もその軸芯のまわりに自転類似の自己回転運動をすることになり、これを自転と呼ぶこともできる。いずれにせよ、小筒たる円筒状容器とその内部の被加工材は、大筒の中心からの距離γと大筒の中心のまわりの回転角速度ωとが時間的に大幅に変動する状態で、大筒の中心のまわりを複雑な経路で周回する。このような場合の遠心力の方向と大きさを厳密に解析することは極めて難しいが、第一近似としては、被加工材には大筒の中心から遠ざかる方向にγとωとに比例した大きさの遠心力が働くとみなせる。右のようにγとωとが時間的に大幅に変動するので、遠心力の大きさも時間的に更に大幅な変動をすることになり、遠心力は大から小に、小から大に、というように周期的に顕著に変動する。そして、被加工材が大筒の中心の真上付近に近付く時、遠心力は上向きに、重力は下向きに作用するが、遠心力の大きさが減少していって重力の大きさより小さくなった瞬間に被加工材は容器内で下方に落下し反転する。すなわち、今までとは反対側の面を円筒状容器内壁面に接するに至る。

以上のような力学現象が生ずるように装置を工夫構成し、機械を一定速度で連続運転していても被加工材が随時頻繁に自動的に落下反転して両面とも短時間で均等に面取加工できるように考案した点が、本願発明の最大の特徴であり、他に例をみない点である。なお、本願発明では、中筒の自転の回転速度と大筒の公転の回転速度とを別個に任意にそれぞれ設定することができるので、被加工材に働く遠心力の時間的変動と重力との綱引きの兼ね合いを調整して、反転の頻度も簡単に調整でき、これにより、被加工材を最適の頻度で反転、旋回させて、被加工材の材質や目的に応じた最適の研摩面取加工を容易に行うことが可能となったのである。

なお、本願発明において、円筒状容器を筒受枠軸の軸芯位置に筒受枠軸と平行または有角度に取り付け、主軸と筒受枠軸をそれぞれ電動機等の回転駆動装置に依り回転駆動するように構成された場合本願発明の装置は二段構成となるが、やはり引用例記載の発明とは異なっている。すなわち、本願発明の場合、容器の自転が自在であって、その自転の効果は主として研摩速度の調整に役立ち、自転の回転速度を上げれば摺動速度を増大する。これに反して、引用例記載の発明の装置の場合は、前記のとおり、固定座標系から、すなわち地上から観測すれば、容器12は一定の姿勢(鉛直姿勢)を維持したまま公転しているのみであって、なんら自転はしていないため、被加工材は容器の内壁面に密着したまま一回転するというだけであって、本願発明のごとき自転の回転数を増せば摺動速度を増加するというような作用効果はない。

(二) 相違点の看過

(1) 審決の理由の要点5摘示の相違点(ホ)に対する判断の誤り

引用例記載の発明の装置においては、機械の作動中に被加工材が落下、反転しないことは前述のとおりであるから、落下、反転と同時に生ずる期待の大きい大幅な旋回はせず、定期的に機械を起動したり停止したりすることによってのみ被加工材は反転し、有効な旋回をするものである。一方、本願発明においては、機械の連続運転中に被加工材が頻繁に且つ自動的に落下、反転することは前述のとおりであり、その際に面取加工を迅速に均等化するのに有効な大幅な角度の旋回が頻繁に且つ自動的に生ずるのであって、本願発明では有効な旋回を得るための格別の構成が採られているのである。しかも、本願発明の装置における円筒状容器を筒受枠軸と有角度に取り付けるという構成は旋回作用を促進させるものである。なお、被加工材が円盤であれば、形状からして、円対称軸のまわりに徐々に旋回可能であることは当然の理であり、ことさらいうに当たらない。

したがって、本願発明において旋回のための格別の構成が採られていないとする審決の認定は、明白な誤りであり、(ホ)のような相違点を引用例記載の発明と本願発明との間にみることはできないとする審決の認定は誤ったものである。

(2) 審決の理由の要点5摘示の相違点(ニ)に対する判断の誤り

前記のとおり、引用例記載の発明の装置においては、容器12とクランクアーム19との固着ユニットは一定の姿勢を維持しながら公転するだけで、固定座標系すなわち地上からみるとなんら自転はしておらず、自転している場合のような遠心力の大幅な時間的変動を被加工材料に与えない。

(ニ)のような相違点を引用例記載の発明と本願発明との間にみることはできないとする審決は、引用例記載の発明の装置の容器12があたかも自転とそれによる遠心力の大幅な時間的変動の作用をするものであることをその前提とするものであるから、審決の右認定は誤りである。

なお、審決は、前者(本願発明の容器15)の自転を後者(引用例記載の発明の容器12)の自転と異ならせても、それは所謂遠心流動バレル研摩法における周知の操作態様にすぎないと述べるが、引用例記載の発明の装置の容器はディスクの軸芯まわりに等速円運動をしているだけであるから、容器内の被加工材には一定でしかも重力よりも圧倒的に大きな遠心力しか働かず、機械の作動中は容器内の被加工材は落下、反転できないのに対し、本願発明の容器は、複雑な公転運動と自転運動とを行うので、容器内の被加工材に働く遠心力が大幅に時間的な変動をなし、ために被加工材の落下、反転、大幅な角度での旋回が機械の連続運転中に自動的に頻繁に生じて、研摩面取加工の作業効果を一段とあげられるのであることは、前述のとおりである。以上のような、本願発明の容器の回転を引用例記載の発明の容器の回転と異ならしめることは、機械の本質的な構成、機構作用を根本から変更することであり、これを遠心バレル研摩法における周知の操作態様にすぎないということはできない。因みに、被告が周知例として引用する乙第一号証の一ないし三(金属表面技術講座3「表面研摩法」、昭和四三年八月三〇日株式会社朝倉書店発行)の記載は「遠心流動バレル研摩法」についての説明であり、バレル(研摩槽)の内部は、被加工材と加工材とが混在した内容物が充満しているかたまり(マス)が存在する部分と、かかる内容物の存在しない部分からなり、マスと空間に接する面との間に生ずる流動層部分のみで研摩が行われるのに対し、本願発明及び引用例記載の発明は「摺動バレル研摩法」であって、流動層を生ぜしめることなく、研摩槽の内周面と被加工材とが加工材を介して摺動(摺擦)することにより研摩が行われるものであり、両者は根本的に異なる研摩法である。

(3) その他の相違点の看過

引用例記載の発明の装置では、容器12はディスク9上のベアリング11に軸支されており、且つクランクアーム19等を介して環16に連結されているのに対し、本願発明では、筒受枠軸13の外周に円筒状容器15を収容保持する収容凹部14が軸方向及び円周方向に複数個配設され、蓋部及び容器を容易に着脱可能とした構造が採用されている。したがって、引用例記載の発明の装置では容器12が被加工材に応じて互換性を有していない構成となっているのに対し、本願発明は被加工材に応じて任意の直径の大きさの円筒状容器に交換することができる構造となっている。この点に関し、被告は、このような構造は、特許請求の範囲に記載されていないから、本願発明の必須の構成とみることはできない旨主張するが、特許請求の範囲の項には「その外径に対して内径が比較的小径に成る内筒腔部を有する……円筒状容器」と記載され、発明の詳細な説明の項には「該筒受枠軸13の外周には後述する円筒状容器15を収容保持する収容凹部14が軸方向及び円周方向に複数個配設形成され、蓋部材16等着脱可能になる固定構成を持つ」と記載されており、これらの記載を総合すると、被加工材に応じて任意の直径の大きさの円筒状容器に交換することができる構造となっていると解することができる。

また、引用例記載の発明の装置は、容器の回転につき二段の回転体構成を採り、且つ偏心回転体の機構が採用されているのに対し、本願発明では円筒状容器の回転につき三段の回転体構成を採っているが、偏心回転体の機構は採用されていない。引用例記載の発明の装置がかかる偏心回転体の機構を採用したのは、容器の自転を押え込んで常に一定の姿勢で公転だけをさせるためであって、これにより被加工材には一定の大きな遠心力が働き、これを押え圧力として一定の摺動速度で被加工材の片方の面だけの面取加工が進行するが、落下反転には機械を定期的に停止、再起動する必要があるという一大欠点を生ずるに至っているのに対し、本願発明の場合には、三段の回転体構成に加えて二つのそれぞれ独立な回転駆動装置を導入して円筒状容器の複雑な公転的運動及び自転的運動を所望の形に制御し、該容器内の被加工材を自動的且つ頻繁に反転旋回させて被加工材の研摩面取加工の作用効果を充分発揮することを初めて可能ならしめたもので、このような構成の根本的相違により、両者の作用効果には著しい相違が招来されている。

(三) 審決は、両者間に研摩面取加工についての作用効果の上に著しい相違をきたす以上のとおりの構成上の相違があるにも拘らず、相違点(イ)及び(ロ)以外の構成において両者は一致している旨の認定をなしたもので、違法であることは極めて明白である。

3  相違点(イ)、(ロ)に対する判断の誤り(取消事由3)

(一) 相違点(イ)に対する判断の誤り

審決の引用する実公昭五一-四八〇七〇号公報に記載のものは、被加工物を収容するバレル槽の自転軸及び公転軸は鉛直方向に配置されているのに対し、本願発明の装置では、筒受枠軸13及び円筒状容器15の自転軸、公転軸は鉛直方向に対し直角に配置されていて、その構成が基本的に異なっている。作用においても、右公報記載のものは、遠心力は水平方向に、重力は鉛直方向に、すなわち互いに常に直交方向に働くので相互に無関係であり、本願発明における遠心力と重力の綱引き関係による被加工材の反転などは全く生じないので、作用も根本的に異なっている。

このように、基本的構成や作用の根本的に異なるものを引用して、単にこのようにバレル槽の自転軸、公転軸の鉛直方向に配置されている事項から、相違点(イ)の構成は、引用例記載の発明における容器をデイスクに軸を介して取り付けたものに相当し、当業者が容易に想到することができたといわざるを得ないとする審決の判断は誤りである。

(二) 相違点(ロ)に対する判断の誤り

審決の引用する特公昭五四-二九五七号公報に記載のものは、バレルの公転のための駆動装置とバレルの自転のための駆動装置とはそれぞれ別個のものとなっているが、この発明は自公転式マルチバレル研磨機のバレルを等しい速度で自転させて各バレルを常に同じ向きにあらしめるもので、この自転は本願発明の場合のように遠心力を大幅に時間的に変動させ容器内の被加工材に作用させて被加工材を落下、反転、旋回させるという効果を生じさせ研摩面取加工の目的を果たさせるものではない。

したがって、相違点(ロ)の構成とすることは当業者が格別の創意を要したとはいえないとする審決の判断は誤りである。

なお、被告は、本願発明の特許請求の範囲には電動機等の回転駆動装置がそれぞれ可変速であるとの技術的事項が何ら記載されていないと主張するが、発明の詳細な説明の項には「前記二個の電動機5、18を駆動して回転フレーム1、1及び筒受枠軸13をそれぞれ回転せしめ、該筒受枠軸13を自転と同時に公転させるものであり、上記両電動機5、18からそれぞれ駆動伝達される減速機6、19の出力軸の回転比により筒受枠軸13を所望速度で自転及び公転することができる。」との記載が存するところ、この記載は特許請求の範囲の解説欄的機能を果たしているものであるから、かかる技術的事項は特許請求の範囲に記載されているものとみなされる。

第三  請求の原因に対する認否及び被告の主張

一  請求の原因一ないし三は認める。同四は争う(但し、相違点(ロ)の「二台の駆動装置により回転する構成」は「それぞれの駆動装置により回転する構成」の趣旨であることは認める。)。

二  審決の認定、判断は、全て正当であり、取り消されるべき違法は存しない。

1  取消事由1について

(一) 本願発明は、特許請求の範囲に記載されるように、円筒状容器を主軸に対して公転及び自転させるものである。つまり「主軸に対して」が重要な意味を持つ。そして、引用例記載の発明もまた、容器12を軸7に対して、すなわち主軸に対して公転及び自転させるものである。

この点に関して、引用例記載の発明の容器が固定座標系からみれば自転していないとの原告の主張は、機構的には認めることができるが、遠心力を利用したバレル研摩装置でいう自転とは、通常、主軸に対するものである。なぜならば、主軸に固定した回転フレームの主軸に対する軸芯位置に円筒状容器をフレームに対して回転不能に固定したバレル研摩装置を用いて研摩を行うとすると、この場合、固定座標系からみれば円筒状容器はN回の公転を行うと同時にN回の自転を行うことになるが、円筒状容器内の加工材料及び研摩材料は遠心力によって常に円筒状容器の外周にあたかも固着したような状態となるので、結果的に研摩が行われないことになり、容器に公転と自転とを与えたにも拘らず研摩が行われないと結論づけざるを得なくなる。したがって、引用例記載の発明は、固定座標系からみれば容器が自転していないようにみえる訳ではあるが、主軸に対する自転を容器に与えることによって良好なバレル研摩を達成しているものである。

(二) 引用例には「機械を起動したり停止することにより、被加工物または結晶体は反転せしめられる。換言すれば、時折機械を起動したり停止することにより、平均の法則が働いて、その結果、各結晶体は両面が平等に面取りされる。このようなやり方で処理された結晶体は、手動により得られたものに比し、かなり高率で十分面取りされた端面を得られることが判明した。そして、端面面取りの時間が大幅に短縮されることが判明した。」との記載(二頁左欄三八行ないし四八行)がある。

これはまさに「随時反転して」に相当するものであるから、原告の主張は失当である。

2  取消事由2について

(一) 本願発明の主要な構成部分とその作用効果について

本願発明においては、円筒状容器を、筒受枠軸の軸芯位置に設ける構成と、右軸芯の近傍に設ける構成が含まれるが、これら二つの構成については、本願発明の各実施例として(別紙図面一第1ないし第5図と第8図)説明されている。したがって、原告の主張する本願発明の主要構成のうち、「該筒受枠軸の軸芯位置の近傍に」は「該筒受枠軸の軸芯位置またはその近傍に」と解すべきであり、近傍位置のみの構成から生ずる作用効果を論ずることは失当である。

(二)(1) 相違点(ホ)に対する判断について

引用例記載の発明においても、被加工材を円盤とすれば、その旋回が可能であることは、審決のとおり理の当然である。なお、審決が「前者において旋回のための格別の構成が採られておらず」という趣旨は、被加工材の旋回を増進させるような格別の技術手段が特許請求の範囲で特定はされていないという意味である。

原告は、本願発明は三段構成を採り、有角度に取り付ける構成を採っているから、被加工材の旋回を増進、促進させる旨主張するが、本願発明は、二段構成、平行に取り付ける構成を採るものも含むものであるから、原告の主張は失当である。なお、有角度に取り付ける構成は引用例にも示唆されている。

(2) 相違点(二)に対する判断について

乙第一号証の一ないし三(金属表面技術講座3「表面研摩法」、昭和四三年八月三〇日株式会社朝倉書店発行)によれば、所謂遠心流動バレル研摩法において自転数の公転数に対する比をある限られた範囲で自由に採り得ることが自明である。

(3) その他の相違点の看過について

原告は、本願発明の装置は被加工材に応じて任意の直径の大きさの円筒状容器に交換することができる構造となっている旨主張するが、このような構造は、特許請求の範囲に記載されていないから、本願発明の必須の構成とみることはできない。

本願発明においては、円筒状容器を、筒受枠軸の軸芯位置に設ける構成と、右軸芯の近傍に設ける構成が含まれることは前記のとおりであるところ、右両構成は同様の研摩原理を意味するものと解される。また、本願発明の円筒状容器の取付姿勢についてみると、円筒状容器を、筒受枠軸と平行または有角度に取り付ける二つの場合があるが、いずれの取付姿勢においても研摩原理は同様のものと解される。そして、本願発明及び引用例記載の発明は、円筒状容器が筒受枠軸の回りに回転自在、且つ主軸に平行に設けられている点では差異はない。

3  取消事由3について

(一) 相違点(イ)に対する判断の誤りについて

研摩装置において、回転フレーム相当部材に軸を回転自在に支持し、該軸に容器を取り付ける構成は周知である。例えば審決において周知例として引用した実公昭五一-四八〇七〇号公報(甲第五号証)には、メインシャフト2(本願発明の主軸に相当)に固定したプーレー付きターレット5及びターレット6(本願発明の回転フレームに相当)に、バレル受15、16、17、18を一体化した軸11、12、13、14(本願発明の筒受枠軸13、13a、13bに相当)を回転自在に支持し、該バレル受すなわち軸11、12、13、14にバレル槽6a、6b、6c、6d(本願発明の円筒状容器15、15a、15b、15cに相当)を取り付ける構成が開示されている。したがって、引用例記載の発明のようなディスク9に容器12を軸を介して相対回転可能に、且つ軸が直接駆動される態様で取り付ける程度のこと、つまり周知手段による置換を行う程度のことは、当業者が容易に想到し得たものである。

(二) 相違点(ロ)に対する判断の誤りについて

主軸及び容器をそれぞれ別個の駆動装置により回転駆動することも周知である。例えば、審決において周知例として引用した特公昭五四-二九五七号公報(甲第六号証)には、公転用駆動磯G(本願発明の電動機等の回転駆動装置5に相当)により主軸6(本願発明の主軸2に相当)を回転させ、自転用電動機M(本願発明の電動機等の回転駆動装置18に相当)によりバレル2(本願発明の円筒状容器15、15a、15b、15cに相当)を回転するものが開示されている。したがって、引用例記載の発明のように、軸7と容器12とを一台の動力装置により回転する構成を、軸7と容器12とをそれぞれ電動機等の回転駆動装置により回転駆動するように構成する程度の改変は、既述の周知手段による置換に相当するから、当業者が格別の創意を要することなく行い得たものである。

なお、原告は、本願発明は、筒受枠軸13の公転と自転との駆動装置をそれぞれ別個のものたらしめ、該筒受枠軸の公転速度および自転の回転速度を別個に所望の任意のものたらしめる旨主張するが、本願発明の特許請求の範囲には電動機等の回転駆動装置がそれぞれ可変速であるとの技術的事項が何ら記載されておらず、電動機等の回転駆動装置をそれぞれ別個にしたとしても、それぞれの回転駆動装置の回転数が一定の場合も、一方の回転駆動装置の回転数が一定で他方の回転駆動装置の回転数が可変速である場合も、また、双方の回転駆動装置の回転数が可変速である場合も考え得るものであるから、本願発明の要旨の構成を採ったからといって、そのことから直ちに、公転速度および自転の回転速度を別個に所望の任意のものたらしめると主張することはできない。そして、原告主張の発明の詳細な説明の項の前記記載から即座に出力軸の回転比が可変であるとすることもできない。

第四  証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  請求の原因一ないし三の事実(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二  本願発明の概要

いずれも成立に争いのない甲第二号証(本願発明についての公開特許公報)、第三号証の一及び二(昭和五八年一〇月三日付及び昭和五九年四月二七日付各手続補正書)(以下、これらを総称して「本願明細書」という。)によれば、近年、セラミックや超硬金または水晶結晶板等の加工が増大しているが、これらのものは硬質であるばかりでなく脆い性質を持っているため加工が困難であり、特に円盤形状のものの面取加工には過大の労力と熟練を要するものであったこと、しかるに、本願発明は、右問題に鑑み、円または楕円等の硬質盤状体の新規面取加工方法による面取加工に用いる研摩面取装置を提供することを目的とするもので、前記本願発明の要旨のとおりの構成を採用することによって、盤状体の面取加工を迅速且つ高精度に仕上げる装置を提供せんとするものであることが認められる。

三  取消事由に対する判断

1  引用例記載の発明の記載内容について(取消事由1に対する判断)

(一)  引用例の記載内容として審決が認定した事項(前記の審決の理由の要点2)については、容器12を自転せしめること及び被加工材20を随時反転してその面取加工を行うことが記載されているとの点を除いては、当事者間に争いがない。

(二)  原告は、引用例記載の発明の装置では、容器12は公転しているのみで自転はしていない旨主張するので、判断する。

(1) 成立に争いのない甲第四号証(引用例)によれば、引用例には「両支持体5間に設けられた軸7に固定されたものは一定基準の間隔を置いて設けられた二個のデイスク9であって、その各々には、10として示した環状の開口部を有し、その中には、ベアリング11が嵌合されており、その開口部10は軸7とディスク9の軸から、それぞれ相応した距離が置かれている。ディスク9の整えられたベアリングに回転自在に軸支されているものは円筒状コンテナ12であって、このコンテナ12は軸7に対して、且つ相互に平行に配置れている。」との記載(一頁右欄三三行ないし四一行、訳文五頁一二行ないし六頁一行)、「常に密閉されているコンテナ12の、13で示されている前述した一方の端部に隣接するとともに隣接するディスク9の外側に、固定的偏身体15が軸7を貫通させて回転自在に配設されている。偏身体は何らかの適切な方法によって、例えば図示ように隣接する支持体5のベアリング6に偏身体を堅固に結合させるようにして回転に対する制御をなすことができる。偏身体15に回転自在に嵌合されたものは、一定の間隔をもって開口部を有する環16であって、その中にはベアリング17が嵌め込まれており、該ベアリング17は軸心7よりも下に在る偏身体15の軸心から等距離の円周上に位置している。クランクピン18は回転自在にベアリング17に当接すると共にコンテナ12の各端部に隣接して固定されたクランクアーム19のそれぞれの端部によって支えられている。」との記載(一頁右欄四五行ないし末行、訳文六頁六行ないし七頁一行)及び「運転中、軸7は軸7の軸心を中心としてコンテナ12を回転させるように回転する。従ってコンテナは円周軌道上を回転する。このようにコンテナが回転するにつれて、固定式偏身体15上を回転する環16とクランクアーム19との結合により、各コンテナはコンテナ自身の軸心を中心に反対方向に同時に回転することになる。示された配列(構成)においては、ディスク9とコンテナ12とで構成するユニットが軸7の軸心を中心として一回転を完了するときに、各コンテナ12がコンテナ自身の軸心を中心として一回転を完了する。」との記載(二頁左欄一〇行ないし二二行、訳文七頁一〇行ないし八頁一行)が存在することが認められる。これらの記載によれば、引用例記載の発明の装置においては、ディスク9が軸7の軸芯を中心にコンテナ(審決にいう「容器」。以下「容器」という。)12を公転させるように回転すると、該容器12は軸7を回転支点として、ディスク9の軸芯7から容器12の軸芯までの距離を半径とした円周軌道上を回転し、一方、このように容器12が公転するにつれて、偏身体(審決にいう「偏心体」。以下「偏心体」という。)15を中心支軸として回転する環16とクランクアーム(審決にいう「腕」。以下「腕」という。)19との連結運動により、容器12と腕19との固着ユニットは腕を下側にした姿勢(鉛直姿勢)を保ったまま各容器の軸芯を中心として公転とは反対方向に回転するものであり、この回転現象をディスク上から眺めれば、換言すればディスクに対する関係で観察すれば、容器が公転しつつその反対方向に容器自身の軸芯を中心として自転しているとみることができることは原告も争わないところである。

(2) 原告は、容器12の右のような回転現象を、固定座標系から、すなわち地上から観測すれば、容器12は一定の姿勢(鉛直姿勢)を維持したまま公転しているのみであって、なんら自転はしていないと主張する。

そこで、この点について検討するに、引用例記載の発明における軸、デイスク、容器が、それぞれ本願発明における主軸、回転フレーム、円筒状容器に相当するものであることは当事者間に争いがないところ、本願発明における円筒状容器の回転現象に関し、本願明細書の特許請求の範囲の項には、前記のとおり「回動自在に横架軸設した主軸に固設した回転フレームに対して一個又は複数個の筒受枠軸を自転自在に且つ上記主軸に対して公転する如く軸設し」と記載され、また、「両回転駆動装置の回転駆動により該円筒状容器を主軸に対して公転及び自転せしめ」と記載されており、前掲甲第二号証、第三号証の一、二によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の項には、「この回転フレーム1、1間には円周方向を一二〇度の等角度に分割するとともに等距離間に三個の回動軸9を横架設し、……。また上記回動軸9には円柱状の筒受枠軸13が回動軸9と平行に軸支固設され、回転フレーム1、1間に架設せしめられると共に、該筒受枠軸13の外周には後述する円筒状容器15を収容保持する収容凹部14が軸方向及び円周方向に複数個配設形成され、蓋部材16等着脱可能になる固定機構を持って、上記円筒状容器15を筒受枠軸13と平行に固定保持するように成る。」と記載され(甲第二号証二頁右上欄一一行ないし左下欄四行)、更に「従って筒受枠軸13が公転しながら自転すると、該筒受枠軸13に取り付けられた各円筒状容器15も自転及び公転するようになり」と記載(甲第二号証二頁右下欄一二行ないし一四行)されていることが認められる。したがって、本願発明における円筒状容器の公転とは、回転フレームに軸設されている筒受枠軸が該回転フレームの回転によって主軸を回転支点として主軸の軸芯から筒受枠軸の軸芯までの距離を半径とした円周上軌道を回転すると、筒受枠軸に固定保持された円筒状容器もこれに伴って主軸を回転支点として回転することを意味し、円筒状容器の自転とは、回転フレームに対して回転自在に軸設された筒受枠軸が、該筒受枠軸自身の軸芯を中心として回転すると、筒受枠軸に固定保持された円筒状容器もこれに伴って筒受枠軸の軸芯を中心支点として回転することを意味するものと解される。

ところで、本願発明は、前記本願発明の要旨のとおり、筒受枠軸の軸芯位置またはその近傍に一個または複数個の円筒状容器を筒受枠軸と平行または有角度に取り付ける構成からなるものであるから、〈1〉筒受枠軸の軸芯位置に一個または複数個の円筒状容器を筒受枠軸と平行または有角度に取り付ける構成(以下、「構成〈1〉」という。)(別紙図面一の第8図参照)と、〈2〉筒受枠軸の軸芯近傍に一個または複数個の円筒状容器を筒受枠軸と平行または有角度に取り付ける構成(以下、「構成〈2〉」という。)(同図面の第3図、第10図参照)との両者を包含するものであるということができるところ、本願発明における円筒状容器の前述のような自転運動は、構成〈2〉において、回転フレームに対する関係で観察した場合、円筒状容器は筒受枠軸の軸芯を回転支点として筒受枠軸の軸芯から円筒状容器自身の軸芯までの距離を半径とした円形の軌道を回転するものであって、円筒状容器自身の軸芯を中心として回転する真の意味での自転ではないが、構成〈1〉で特に円筒状容器を筒受枠軸と平行に取り付ける構成の場合においては、筒受枠軸が筒受枠軸自身の軸芯を中心として回転すると、円筒状容器も円筒状容器自身の軸芯を中心として回転することになり、回転フレームに対する関係で観察すれば円筒状容器自身の軸芯を中心として自転しているものと認めることができる。以上によれば、本願発明の要旨における円筒状容器の自転の語義は、構成〈1〉の場合と構成〈2〉の場合とでは若干異なるとはいえ、少なくとも回転フレームに対する関係における円筒状容器の回転をもって円筒状容器の自転と解している点において変わるところはなく、固定座標系から、すなわち地上から観測して、円筒状容器の自転をとらえているものとはいえない。

(3) このように、本願発明において、円筒状容器の自転の意義を回転フレームとの関係で把握している以上、これと対比されるべき引用例記載の発明の装置における容器の自転の意義も同様に把握すべきであり、前記のように引用例記載の右容器もディスクに対する関係で観察すれば自転と認め得るのであるから、引用例記載の発明において容器が自転しているとした審決の認定判断に誤りはない(この本願発明及び引用例記載の発明における自転の意義に関し、被告はこれを主軸(引用例記載の発明においては軸。)に対するものである旨主張するが、本願発明における主軸と回転フレームとは固設されているものであることは前記の本願発明の要旨から明らかであり、また、引用例記載の発明における軸とデイスクとが固着されていることも前記の審決認定に係る引用例の記載内容のうち当事者間に争いのない部分から明らかであり、したがって、本願発明及び引用例記載の発明における自転の意義を主軸に対するものとい解することと回転フレーム(引用例記載の発明においてはディスク。)に対するものと解することとは同義であると解する。)。

よって、原告の右主張は採用できない。

(三)  原告の、引用例記載の発明の装置は被加工材20を随時反転してその面取加工を行うものではない旨の主張について、判断する。

前掲甲第四号証によれば、引用例には「この機械を起動したり、停止したりすることによって、被加工材または結晶体も反転させることが可能となる。換言すれば、機械を定期的に起動したり、停止したり、することによって、均等の法則を利用し得るのであって、その結果各結晶体は両端面が均一に面取される。」との記載(二頁左欄三八行ないし四四行、訳文八頁一四行ないし一九行)が認められる。

右記載によれば、引用例記載の発明は、原告主張のように、被加工物がその一方の側の面を容器内壁面に押し付けられた状態が継続したとしても、機械を必要に応じて随時起動したり停止したりすることによって、被加工材または結晶体を反転させて、その面取加工を行うものであると認めることができるから、引用例記載の発明の装置は被加工材20を随時反転してその面取加工を行うとした審決の認定に誤りはない(原告は、本願発明の構成〈2〉を念頭に置き、審決が引用例に容器を「随時反転」させることが記載されているとした認定を、引用例が被加工材を随時反転させる機構を内在している趣旨と解している如くであるが、審決の認定がそのような趣旨でないことは、その摘示に照らし明らかであるし、本願発明の構成〈1〉と対比されるべき引用例記載の装置がそのような機構を備えているものでないことは、甲第四号証の記載からも知ることができる。)。

2  本願発明と引用例記載の発明との相違点の看過の主張(取消事由2)に対する判断

(一)  本願発明の主要な構成部分とその作用効果の主張について

本願発明は、筒受枠軸の軸芯位置またはその近傍に一個または複数個の円筒状容器を筒受枠軸と平行または有角度に取り付ける構成からなるものであるから、筒受枠軸の軸芯位置に一個または複数個の円筒状容器を筒受枠軸と平行または有角度に取り付ける構成〈1〉と、筒受枠軸の軸芯近傍に一個または複数個の円筒状容器を筒受枠軸と平行または有角度に取り付ける構成〈2〉との両者を包含するものであることは前記のとおりである。

原告は、本願発明におけるこれらの二つの構成のうち、構成〈2〉をもって本願発明の主要な構成部分であると主張し、本願発明は、構成〈2〉の構成を採ることによって、円筒状容器(小筒)の軸芯が円軌道上でなく、複雑な波形或いはらせん状の軌道に沿って回転フレーム1(大筒)の中心に近付いたり遠ざかったりしながら公転するという複雑な経路で周回するため、機械を一定速度で連続運転していても被加工材が随時頻繁に自動的に落下反転し、両面とも短時間で均等に面取加工できる旨主張する。しかしながら、本願発明における構成〈1〉の構成の場合をみると、円筒状容器(小筒)の軸芯と筒受枠軸の軸芯とが一致するため、円筒状容器(小筒)の軸芯は円軌道上を公転するものであることが明白であり、したがって、原告の右主張は本願発明を構成〈2〉のものとした場合にのみ生ずる作用効果の主張であると解することができる。本願発明が構成〈1〉及び構成〈2〉との両者を包含するものである以上、そのうちの一部の構成にのみ生ずる効果をもって本願発明の作用効果であると主張することは許されず、原告の右主張は採用できない。

更に、原告は、本願発明における構成〈1〉の構成の場合、容器の自転が自在であるため、自転の回転速度を上げることによって摺動速度を増大させることができるという、引用例記載の発明にはない作用効果が認められる旨主張する。しかしながら、前掲甲第四号証によれば、引用例には、「本発明は……被加工材(object)がコンテナーの内周面に対する関係においてのみ摺動せしめられる」との記載(一頁左欄一行ないし六行、訳文一頁一〇行ない一三行)、「本機械が具有する原理は、コンテナー(容器)の表面(内周面)に目的物(被加工材)を押圧させる遠心力を発生させると同時に被加工材と、遠心力により被加工材が押圧されるコンテナー(容器)の内周面とが相対運動を引き起こすということである。」との記載(一頁左欄一七行ないし一九行、訳文二頁七行ないし一一行)及び「この種の機械の他の利点は、被加工材とコンテナ内周面との間の相対運動が、コンテナが軌道を回転(公転)するときの回転速度を変更することによって変更され得るということである。」との記載(一頁左欄三二行ないし三七行、訳文二頁末行ないし三頁四行)の在することが認められるところ、引用例記載の発明において、各容器(コンテナ)は、公転を一回行う毎に、各容器自身の軸芯を中心に公転とは反対方向に一回自転を行うものであることは前記のとおりであるから、引用例記載の発明においても自転の回転速度を上げることによって摺動速度を増大させることができることは明らかであり、この点に関する原告の主張も理由がない。

(二)  相違点(ホ)に対する判断の誤りの主張について

(1) 引用例記載の発明が、必要に応じて機械を随時起動したり停止したりすることによって、被加工材または結晶体を反転させ、その面取加工を行うものであることは前記のとおりである。そして、前掲甲第四号証によれば、引用例には、特許請求の範囲の項において、「被加工材がとんぼがえりしない遠心力を利用した機械。」と記載(二頁左欄七四行ないし七五行、訳文一〇頁一九行ないし末行)されていることが認められるところから、引用例記載の発明の装置においては、機械の作動中に被加工材が反転しないことは明らかである。

これに対し、原告は、本願発明においては機械の連続運転中に被加工材が頻繁に且つ自動的に落下反転する旨主張するが、同主張は本願発明を構成〈2〉のものとした場合にのみ生ずる作用効果の主張として許されるものではないことについては、前記のとおりである。

(2) なお、前掲甲第二号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の項には「また当該被加工材料30は矢印D部の研削・研摩材29の流動により反転され、両面角部30aが均等に面取加工されるものである。」(三頁左上欄一五行ないし一七行)との記載の存することが認められる。しかしながら、右甲第二号証によるも、右反転の作用は、本願発明の全ての構成に共通に認められるものであるのか、ある実施例に限って認められるものであるのかについては必ずしも明確ではなく、かえって、右甲第二号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の項の記載は、まず、二頁右上欄三行以下において別紙図面一の第1図、第2図により本願発明の構成〈2〉による実施例を説明し、それに続いて「上記構成に成る研摩・面取装置は、……」との書き出し(二頁右下欄二行)で始めて同実施例の加工原理その他の作用を説明するところ、反転の作用に関する当該記載も同説明の一環として存在すること、しかる後に、三頁右上欄一一行以下において、他の実施例として、第8図に示された本願発明の構成〈1〉による実施例が説明されているが、右説明中には反転作用に関する記載はなく、また、これらに共通する作用効果の記載として、「以上説明したように本発明の硬質盤状体の面取加工方法及びその研摩面取装置によれば水晶発振子の水晶結晶板の外、セラミックや超硬金等の硬質盤状体の面取加工を正確且つ短時間に行なうことができるようになるものであり、熟練工等の特殊技能を要することがないことも相俟って、加工コストの大幅な引下げが計れる特徴を有し、本発明の硬質材加工業界に及ぼす影響は極めて大きい。」とのみ記載され(三頁左下欄一三行ないし右下欄二行)、機械の連続運転中に被加工材が自動的に反転する旨の作用には直接言及されていないことが認められ、これらを総合勘案すれば、本願発明において、仮に機械の連続運転中に被加工物が自動的に反転する作用が認められるとしても、それは本願発明の全ての構成の場合に認められる作用ではなく、本願発明の構成〈2〉のものに限って認められる作用であると理解するのが相当である。

(3) そして、本願発明と引用例記載の発明とを対比すると、前者が、(イ)回転フレームに筒受枠軸を軸設し、該筒受枠軸に円筒状容器を取り付け(相違点(イ))、(ロ)主軸と筒受枠軸をそれぞれの駆動装置により回転する構成を有する(相違点(ロ))のに対し、後者が、(イ)に関しては、容器をディスクに対し直接取り付け、(ロ)に関しては、軸と容器を一台の動力装置により回転する構成とした点で、両者は相違していることについては、当事者間に争いがなく、本願発明において、回転フレームに軸設されている筒受枠軸が該回転フレームの回転によって主軸を回転支点として主軸の軸芯から筒受枠軸の軸芯までの距離を半径とした円周上軌道を回転すると、筒受枠軸に固定保持された円筒状容器もこれに伴って主軸を回転支点として回転(公転)し、また、回転フレームに対して回転自在に軸設された筒受枠軸が、該筒受枠軸自身の軸芯を中心として回転すると、筒受枠軸に固定保持された円筒状容器もこれに伴って筒受枠軸の軸芯を中心支点として回転(自転)すること、しかして、本願発明の装置として、構成〈1〉により円筒状容器を筒受枠軸と平行に取り付ける構成のものを想定した場合、筒受枠軸が筒受枠軸自身の軸芯を中心として回転すると、円筒状容器も円筒状容器自身の軸芯を中心として回転することになることについては前記のとおりである。一方、引用例記載の発明の装置において、ディスクが軸の軸芯を中心に容器を公転させるように回転すると、該容器は軸を回転支点として、ディスクの軸芯から容器の軸芯までの距離を半径とした円周軌道上を回転し、また、このように容器が公転するにつれて、各容器は、公転を一回行う毎に、各容器自身の軸芯を中心に公転とは反対方向に一回自転を行うものであることも前記のとおりである。以上によれば、構成〈1〉により円筒状容器を筒受枠軸と平行に取り付ける構成の本願発明の装置における円筒状容器と、引用例記載の発明の装置における容器とは、共に主軸(軸)を回転支点として、回転フレーム(ディスク)の軸芯から円筒状容器(容器)の軸芯までの距離を半径とした円周軌道上を回転し、また、円筒状容器(容器)自身の軸芯を中心に自転を行う点において共通し、ただ、引用例記載の発明においては、容器は公転を一回行う毎に各容器自身の軸芯を中心に公転とは反対方向に一回自転を行うものであるのに対し、本願発明のものはそのような限定がない点において、その運動の態様が異なるものであると解することができる(なお、前記の本願発明の要旨によれば、本願発明が機械の稼働中における円筒状容器の回転方向や回転速度を限定しているものでないことは明らかである。)。

そうすると、構成〈1〉により円筒状容器を筒受枠軸と平行に取り付ける構成の本願発明において、引用例記載の発明と同様に、容器が公転を一回行う毎に各容器自身の軸芯を中心に公転とは反対方向に一回自転を行うようなものを想定すると、この場合、本願発明の円筒状容器の運動は引用例記載の発明と容器の運動と全く同様になるから、少なくともこの場合には機械の稼働中に被加工材が自動的に反転することはないことになり、機械の連続運転中に被加工物が自動的に反転する作用が本願発明の全ての構成の場合に認められる作用でないことは、この点からも明らかである。

(4) 以上によれば、本願発明の反転作用をもって機械の連続運転中に被加工材を自動的に反転させる作用と限定することはできず、機械を随時起動したり停止したりすることによって被加工材を反転させ得る引用例記載の発明の装置と本願発明とは、反転作用の点で相違すると解することはできない。

(5) また、旋回作用の点についてみるに、前掲甲第二号証によれば、本願明細書には「更に被加工材料30が特に真円盤状のものである場合には円筒状容器15内で研削による慣性質量の変動に伴なう被加工材料30の回転(矢印E)作用により、角部30aの全周に亘って均一に面取加工が進行し、」との記載(三頁左上欄一七行ないし右上欄一行。なお「(矢印E)」に関しては、本願明細書の各図(別紙図面一)中にこれに該当する記載は存在しない。)が認められ、被加工材料の形状を特定することにより該材料が旋回するものであることが開示されているが、本願明細書にはそれ以上に被加工材の旋回のための格別の構成を示す記載は見当たらない。一方、前掲甲第四号証によるも、引用例には右被加工材の旋回作用に関する記載は見当たらないが、被加工材が円盤であれば円対称軸の回りに徐々に旋回可能であることが当然の理であることについては原告も争わないところであり、引用例記載の発明における装置においても、この意味における旋回作用は生じているものと認めるのが相当である。

原告は、本願発明が機械の連続運転中に被加工材を自動的に反転させる作用を有するものであることを前提として、本願発明においては、引用例記載の発明の装置とは異なり、右反転作用により面取加工を迅速に均等化するのに有効な大幅な角度の旋回が生ずるから、有効な旋回を得るための格別の構成が採られている旨主張する。しかしながら、本願発明の全ての構成に共通する作用として、機械の連続運転中に被加工材を自動的に反転させる作用を有するものと認められないことは前記のとおりであるから、原告の右主張はその前提を欠いた理由のないものである。

(6) 以上によれば、本願発明と引用例記載の発明との間に原告の主張する相違点(ホ)の相違は認められず、この点に関する審決の認定に誤りはない。

(三)  相違点(二)に対する判断の誤りの主張について

(1) 引用例記載の発明の装置では容器12は公転しているのみで自転はしていないとする原告の主張は理由がなく、引用例には容器12を自転せしめることが記載されているとした審決の認定に誤りがないことについては、既に判示のとおりである。そして、成立に争いのない乙第一号証の一ないし三(金属表面技術講座3「表面研摩法」、昭和四三年八月三〇日株式会社朝倉書店発行)によれば、同号証には「遠心流動バレル研摩法」において公転と自転との回転比を異ならせることが記載されていることが認められ、公転と自転との回転比を異ならせることは流動バレル研摩法における周知の操作態様であると認めるのが相当である。

したがって、(二)のような相違点を引用例記載の発明と本願発明との間にみることはできないとした審決の認定に誤りはない。

(2) 原告は、本願発明及び引用例記載の発明は「摺動バレル研摩法」であり、「流動バレル研摩法」とはその研摩法が根本的に異なるから、前者の自転を後者の自転と異ならせ公転と自転との回転比を異ならしめることは、流動バレル研摩法における周知の操作態様ではない旨主張するので、判断する。

前掲甲第二号証によれば、本願明細書には、「本発明の盤状体の面取加工法は、比較的小径の円筒状容器を自転せしめ、該容器内に被加工材と共に投入した研摩材が自転に伴なう遠心力によって上記円筒状容器内壁面に圧接されるような条件に保持した円筒状容器を該円筒状容器の外側にある公転軸を中心に前記被加工材料が円筒状容器において、公転から外向きの半径方向に対し公転に伴なう遠心力によって押し付けられるような条件に保持して、被加工材料の周縁を研摩材を介して成る円筒状容器内面の角度に該研摩材によって摺擦研摩して面取りするものであり」との記載(二頁左上欄九行ないし一九行)及び「円筒状容器15が回転(自転)すると、第6図(別紙図面一第6図)に示すように、内腔部28に投入された被加工材料30と研削・研摩材29は転動流動を生ずるが、該円筒状容器15が同時に公転している為、主軸2を中心に半径方向(矢印A)に押圧され、約半円状断面に成る流動(矢印B)を形成する。この研削・研摩材29の流動は円筒状容器15の内周面25に密接した部分とその近傍の部分(矢印C)では内周面25と共同回転し、殆ど相対移動しないが、弦状の部分(矢印D)では激しい流動が生じるようになる。然るに、被加工材料30の径に比べて円筒状容器15の内径が比較的小径に構成されている為、被加工材料30の角部30aのみが研削・研摩材29の矢印A部に位置するように成り、円筒状容器15の自転と伴に回動する矢印A部の研削・研摩材29との摺擦研摩により該角部30aが円筒状容器15の該部内周面25の接線方向に研削され面取部30bを形成するようになる。」との記載(二頁右下欄一七行ないし三頁左上欄一五行)の存在することが認められ、これらの記載によれば、本願発明における研摩は、円筒状容器内の被加工材料が該円筒状容器の自転と公転による遠心力により該円筒状容器の内壁面に押し付けられ、該内壁面と被加工材料の端面との研摩材を介しての摺擦作用によって行われるものであると解される。また、前掲甲第四号証によれば、引用例には「各コンテナ内にばらばらに置かれている被加工材は遠心力の影響で軸7の軸心に対して外側の位置を取らせられ、それによって被加工材の端面が大きさに変化のない一様な圧力をもってコンテナ12の内周面に押圧させられる。コンテナ中に粒の細かい研磨材の物を置くことによって、加工材または結晶体の端面を面取するように研磨され得る。」との記載(二頁左欄二二行ないし三一行、訳文八頁一行ないし八行)が認められ、この記載によれば、引用例記載の発明における研摩も、本願発明における研摩と同様、容器内の被加工材が該円筒状容器の自転と公転による遠心力により該容器の内壁面に押し付けられ、該内壁面と被加工材料の端面との研材摩杯を介しての摺擦作用によって行われるものであると解される。

これに対し、前掲乙第一号証の一ないし三によれば、同号証には「マスの内部は強い遠心力によってバレルの内壁に引き付けられ、マスと空間に接する面との間には強い圧力(遠心力による)のある流動層を生じ、その部分で高圧研摩が行われ、流動層以外のマスは研摩に寄与していない。このような見地からこのバレル研摩法に遠心流動バレル研摩法の名称が与えられた。」との記載(一六七頁一行ないし五行)の存することが認められ、これによれば同号証の研摩法は被加工材料が流動する研摩材の流動層部分で摺接して研摩されるものであって、本願発明及び引用例記載の発明における研摩法とは容器内での摺擦位置が若干異なるものであるように記載されていることが認められる。しかしながら、右乙第一号証の一ないし三によれば、同号証には「遠心流動バレル研摩方の原理は図5・25(別紙図面三)に示すとおりである。これは後に述べる表示法を用いればn/N=-1の場合であり(n/Nは必ずしも-1であることを必要としない)、タレットの回転方向と反対の方向でかつ同一回転速度でバレルを回転させたものであり、空間的にみれば、バレル内の任意の点は一定の回転半径で回転している。遠心力を利用する各種の加工法の原理は要するに一つの回転槽を高速回転させたのでは内容物は常に外周に固着して研摩が行われないのを、図5・25(別紙図面三)に示すように研摩槽を分離してタレットと別個に回転させ、バレルと内容物との相対位置を変化させれば、内容物の間に相対運動が生まれ、加工が行われるようになることを利用したものである。」との記載(一六七頁一五行ないし二〇行)が認められ、更にn/Z=-1の表示法の説明として「Nはタレットの毎秒回転数、nはバレル軸におけるバレルの毎秒回転数、ただし、Nおよびnは反時計方向を正とする。」との記載(一七〇頁四行ないし六行)が認められるところ、同記載におけるn/N=-1の場合のバレルは前述した引用例記載の発明の装置の容器と全く同一の運動態様を示していることは明らかであり、本願発明及び引用例記載の発明の研摩法も、右乙第一号証の一ないし三に記載された研摩法も、いずれも容器の公転と自転とによる遠心力を利用する研摩法である点で共通であることを勘案すれば、公転と自転との回転比を異ならせることは流動バレル研摩法における周知の操作態様であると認られる以上、引用例の装置を公転と自転との回転比を異ならしめることは当業者が適宜なし得ることであると認めるのが相当であり、この点に関する審決の認定に原告主張の誤りはない。

(四)  その他の相違点の看過の主張について

(1) 原告は、本願発明の装置は被加工材に応じて任意の直径の大きさの円筒状容器に交換することができる構造となっている旨主張するが、右のような構造は、当事者間に争いのない本願発明の特許請求の範囲の記載に照らし、本願発明の構成とみることはできない。

なお、前掲甲第二号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の項には、一実施例の説明として「該筒受枠軸13の外周には後述する円筒状容器15を収容保持する収容凹部14が軸方向及び円周方向に複数個配設形成され、蓋部材16等着脱可能になる固定構成を持って、上記円筒状容器15を筒受枠軸13と平行に固定保持するように成る。」と記載(二頁右上欄一九行ないし左下欄四行)されていることが認められ、同記載によれば、円筒状容器15は適宜なものを随時選択して収容凹部14内に収容することが可能であることは窺われるが、同記載部分は本願発明の単なる一実施例の説明に過ぎず、同記載と本願発明の要旨である「その外周に対して内径が比較的小径に成る円筒腔部を有する……円筒状容器」とを関連付けて、「被加工材に応じて任意の直径の大きさの円筒状容器に交換することができる構造」が本願発明の構成であると解することは相当でないから、原告の右主張は理由がない。

(2) また、「引用例記載の発明の装置は、容器の回転につき二段の回転体構成を採り、且つ偏心回転体の機構が採用されているのに対し、本願発明では円筒状容器の回転につき三段の回転体構成を採っているが、偏心回転体の機構は採用されていない。」として、原告の述べるところは、本願発明が三段構成のものに限られるものでないことは既に判示のとおりであるから、この点において失当である。

なお、偏心回転体の機構の採用の有無の点については、前記のとおり、引用例記載の発明においては、容器は公転を一回行う毎に各容器自身の軸芯を中心に公転とは反対方向に一回自転を行うものであるのに対し、本願発明のものはそのような限定がない点においてその運動の態様が異なるものであるとして、引用例記載の発明の装置と本願発明の装置との相違を運動の態様の面から認定したうえ、流動バレル研摩法における周知の操作態様からみて、引用例の装置を公転と自転との回転比を異ならしめることは当業者が適宜なし得ることであると判示したところから明らかなように、両発明におけるこの点の相違をもって本願発明の進歩性を肯定することはできないから、原告の右主張は、この点からも失当である。

(3) 相違点(イ)、(ロ)に対する審決の判断について(取消事由3に対する判断)

(一)  相違点(イ)に対する判断

成立に争いのない甲第五号証(実公昭五一-四八〇七〇号公報)によれば、同号証には、多槽式遠心流動バレル研摩機が開示され、「メインシャフト2にはプーレー付ターレット5及びターレット6を固定してある、5及び6には2ないし6対、最適には4ないし5対の軸受(図(別紙図面四)には4対の場合を示す)7、7a、8、8a、9、9a、10、10aを具え、軸受内には回転可能のように軸11、12、13、14、を取付けてある。これらの軸の上端にはバレル受15、16、17、18、がそれぞれ固定してある。」との記載(二欄一〇行ないし一七行)及び「バレル受には第2図(別紙図面四第2図)に示すように軸34aが固定してある。軸34aにはバレル受上のバレル槽と同一数だけの腕をもつ固定子35a、35b、35c、35dが回転及び軸方向擢動可能のように取付られ、軸34aの先端にねじ止めされたナット36によってバレル槽6a、6b、6c、6d上に固定されるようになっている。」との記載(三欄三行ないし一〇行)の存在することが認められるところ、これら記載によれば、同号証には多槽式遠心流動バレル研摩機においてターレット(本願発明における回転フレームに相当。)に軸11ないし14(本願発明における筒受枠軸に相当。)を回転自在に支持し、該軸にバレル槽(本願発明の円筒上容器に相当。)を取付ける構成が開示されていると認めることができる。

したがって、研摩装置において、回転フレーム相当部材に軸を回転自在に支持し、該軸に容器を取り付ける構成は本願発明の出願当時周知であると認められるところ、引用例記載の発明のようなディスク9に容器12を軸を介して相対回転可能に、且つ軸が直接駆動される態様で取り付ける程度のことは、右の周知手段による置換として当業者が容易に想到し得たものであると解するのが相当である。

なお、同号証(特に図面(別紙図面四))によれば、同号証に開示された装置は回転軸(自転軸及び公転軸)が鉛直方向に配置されていることが認められ、主軸を横架軸設する前記構成の本願発明とはその構成を異にするものではあるが、前記のとおりの甲第五号証のターレットに軸11ないし14を回転自在に支持し、該軸にバレル槽を取付ける構成は、研摩装置への容器の取付手段としての独立した技術として把握できるものであり、回転軸(自転軸及び公転軸)が鉛直方向に配置されている構成に特有のものとは認められないから、一般の研摩装置の容器の取付手段として、ターレットに軸11ないし14を回転自在に支持し、該軸にバレル槽を取付ける構成は周知であるというを妨げず、一般の研摩装置の容器の取付手段としてこのような構成が周知であれば、これを引用例記載の研摩装置に当業者が適用することは、格別困難を伴うものでもなく、また、格別の工夫を要するものとも認められない。

よって、相違点(イ)に関して、引用例記載の研摩装置に周知事項にを適用することは当業者が容易に想到し得るとした審決の判断に誤りはない。

(二)  相違点(ロ)に対する判断

成立に争いのない甲第六号証(特公昭五四-二九五七号公報)によれば、同号証には、公転用駆動機G(本願発明の電動機等の回転駆動装置5に相当)により主軸6(本願発明の主軸2に相当)を回転させ、自転用電動機M(本願発明の電動機等の回転駆動装置18に相当)によりバレル2(本願発明の円筒状容器15、15a、15b、15cに相当)を回転するものが開示されていることが認められる。

したがって、引用例記載の発明のように、軸7と容器12とを一台の動力装置により回転する構成を、軸7と容器12とをそれぞれ電動機等の回転駆動装置により回転駆動するように構成する程度の変更は、右甲第六号証により示される本願出願前において周知であった手段による置換に相当するから、当業者が格別の創意を要することなく行い得たものと認めるのが相当である。

なお、右甲第六号証によれば、同号証に開示される研磨機は、バレルを公転させると共に各バレルに等しい速度で自転させて各バレルを常に同じ向きにあらしめるものであることが認められるが、公転と自転とをそれぞれ異なる電動機等の回転駆動装置により回転駆動する手段が周知例に示されていれば、この自転と公転とを異なる回転速度で駆動できるであろうことは当業者が自明な事項として認識できる事柄であり、またこの種遠心流動バレル研摩法において公転と自転との回転比を異ならせることは周知の操作態様であると認められることは前記のとおりであるから、引用例記載の発明の装置にこれら周知事項を適用して、公転と自転とをそれぞれその電動機等の駆動装置により回転駆動する構成とするとともに、公転速度および自転の回転速度を別個に所望の任意のものとする作用を奏する装置とすることは、当業者が格別の創意を要する事柄とはいい難い。

よって、この点に関する審決の認定にも誤りはない。

4  以上によれば、本願発明は、引用例に記載の発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものであり、本願発明の進歩性を否定した審決の認定に原告主張の誤りはなく、これを違法として取り消すことはできない。

四  よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 舟橋定之 裁判官 杉本正樹)

図面一

〈省略〉

図面二

〈省略〉

図面三

〈省略〉

図面四

〈省略〉

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